葬送の鳥
 「驚いたな、まだこんなところに人間が生きていたのか」
 その声にコルコが振り向くと、戸口に奇妙な鳥人が立っていた。一見人間のような姿をしているが、背中に大きな翼があり、手足が獣じみている。鳥はずかずかと部屋の中に入ってくると、コルコの顔を見すえ、彼が手にしていた人形をむしるように取り上げた。
 「そういうことか」
 一言だけ言って、取り上げた時と同じように無造作に人形を突き返した。
 「おまえ、もうこの部屋から外に出てみたか?」
 コルコが首を振ると、鳥は彼の腕を荒々しくつかんだ。
 「じゃあ、世界がどうなったか、今からおまえに見せてやる」
 乱暴にコルコの手を引いて外に出ると、鳥人は彼をかかえて、またたく間に空に飛び上がった。
 鳥はコルコを抱え、砂漠の上を風を切りながら飛んだ。
 砂の海はその景色を何ら変えることなく、果てしなくどこまでも続いていた。
 やがて地平線に、ぽつりと建造物らしきものが現れた。鳥の飛翔速度はおそろしく速く、はじめ点のようにかすんでいたその建造物はみるみる大きくなり、異様な全貌がコルコの眼にもはっきりと見えてきた。
 ――これは、あの神話に出てきた塔じゃないか。
「人間が造った最後の塔だ」
 コルコの思いに応えるように鳥が言った。
 それは塔というより、巨大な山のようだ。人間が造った人工物に違いないが、醜悪な生き物の死骸のようにも見える。よく見ると塔の頂近くに、金属の杭のようなものが突き刺さっている。
「あの塔を造った者どもは、ほんとうに愚かな者どもだ」
 鳥は飛びながら、塔の周りをぐるりと一周した。
「世界は終わりかけている。最後の人間も今死ぬところだ」
 そう言って鳥は大地に降り立った。
 降り立った大地に、クレーターのような大きな穴があった。
 穴の縁に立ち、底を覗いてみると、底の中心部に人間らしきものがうずくまっている。
 全く身動きしないそいつを見ていると、人間というより芋虫のようにも見えた。
 気がつくと、コルコを運んできた鳥と同じ姿の鳥人が四人、音もなく、穴の縁に降りてきた。
「あいつは、もうすぐ死ぬ。ここに居る五人の鳥が、あいつの魂を黄泉の世界まで運んでやる。そして世界は、完全に終わる。世界を終わらせるのが我ら葬送の鳥の唯一の仕事なのだ。だがな、あそこにうずくまっているやつが本当に最後の人間なのか、我らは念の為に砂漠中を飛びまわっていたが、おまえを発見したときは本当に驚いた」
 コルコを運んできた鳥はアドニオスと名乗った。自分は第五の鳥だという。第一の鳥がセツ、第二がハルマトート、第三がガリラ、第四はヨーベル。
 アドニオスはコルコが手にしているものを指差した。まったく気がつかなかったが、コルコはあの首のない人形をずっと持っていたのだ。
「何か言いたいんだろうが、その首がない限り無理だ。それよりも、まだ気がつかないのか。あそこにうずくまっているやつは、おまえ自身だというのに」